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『経済倫理=あなたは、なに主義?』

アンケート結果2012

 

Hashimoto Tsutomu

 


 

■川崎信用金庫「かわしん創発塾」(第13期「『主義』のある経営)でのアンケート結果です。(2012年1月19日実施)

 

新保守主義 5名

新自由主義 4名

リベラリズム 2名

近代卓越主義 3名

共和主義 1名

耽美的破壊主義 1名

地域コミュニタリアン・アナキズム 1名

国家型コミュニタリアニズム 1名

平等主義 2名

 

 中小企業の経営者の方々へのアンケート結果です。経営者の皆様、このたびは、アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。

 今回、一番支持された立場は「新保守主義」でした。しかし全体としてみると、立場はかなり分散したように思います。経営者という共通の「下部構造」をもちながらも、イデオロギー的には多様な結果となりました。とても興味深いです。

 当日、皆様と議論した際には、「リバタリアニズム」を選択された方もいらっしゃいました。その方は後に、立場を変更されたのでしょう。中小企業の経営者といえば、「リバタリアニズム」こそが、その最も適合的なイデオロギーであるようにみえるかもしれません。国家に頼らず、独自の手腕で、自由な人生を切り開いてく、というイメージですね。けれども今回のアンケート結果では、新保守主義が最も多く選ばれました。それはなぜでしょう。それは最近の企業文化というものが、「道徳」を必要とする方向に向かっていることを示しているのかもしれません。

 他方で今回は、「リベラリズム」よりも「近代卓越主義」のほうが、多く選ばれています。「近代卓越主義」という新しいイデオロギーは、経営者のあいだでも着実に浸透しているように感じられました。

 なお今回、「平等主義」を選ばれたお二人は、実は経営者ではなく、今回の講演会を企画していただいた「財団法人 地域開発研究所」のスタッフの方々です。研究所でお仕事されている方は、準公務員的な地位にあり、社会学や公共哲学、あるいは市民社会論などに関心を寄せる知識層であると言えるかもしれません。そのような方々に「平等主義」が選ばれているというのも、興味深い結果です。

 質疑応答のなかでは、「私たちは日々の時事問題に対して、そのすべてにいちいち明確な立場をとるだけの検討時間はないのではないか」という意見がありました。その通りだと思います。すべての問題に対して、熟慮の上で立場をとる時間はありません。ですので、私たちはまず、「一定の型」としてのイデオロギーをもち、その立場から問題を考えることで、政治的見解を作ることができるのではないでしょうか。ある意味でイデオロギーとは、すべての政治問題に対して、人間は熟慮することができない、という制約から必要とされているのかもしれません。ある視角を持って時事問題をみてみると、自分に関係のない問題に対しても、一定の見解を形成することができます。

 もう一つ、議論では、「日本人は自分の立場を明確にしないで、その場の空気を読んでから立場を決める傾向にある」というようなご指摘もありましたが、そのような政治文化を、私たちはどのように変革することができるでしょうか。

 今回、「あなたはなに主義」のアンケートを行ってみると、皆さん、かなりバラエティなイデオロギー的立場を選択されました。それぞれの立場に立って、私たちはもっと互いに議論することができるはずです。「空気」を読んで立場を決める必要はありません。みなさん、まず一定のイデオロギーでもって、自分を「キャラ化(キャラクター化)」してみてはいかがでしょう。

 例えば、自分は「リバタリアン」である、という一定のキャラクターを作って演じてみます。そしてそのキャラクターの視点から、他者と議論します。すると議論では、相互に批判的な見解が交わされ、思考が活性化するのではないでしょうか。日本人にとっていま必要なのは、合意のために政治の空気を読むことよりも、キャラ化されたイデオロギーをもつことであり、そのようなイデオロギーを互いに認め合うことではないでしょうか。

 議論が盛り上がれば、そこで形成された意見を、現実の政治のなかで、有効に吸い上げてもらいたいものです。意見形成のプロセスは、これまでマスメディアによって効果的に与えられてきましたが、インターネット上ではさらに、どれだけ議論を熟成させるための民主主義を行うことができるでしょうか。熟議を熟成させるためのツールがあれば、「あなたはなに主義」の議論も、もっと実践的に、政治を変えるための導入になるはずです。

 

2012年1月25日

橋本努